ふしぎ
30年働いた会社を退職して、朝から晩まで飲んだくれのだらしない生活をしていた時期があった。
そんなある日、二日酔いで、喉がカラカラに渇き、水を飲みに布団からはい出した。
水を飲みながら外を見るとチラホラ白いものが落ちてくる。雪だ。目の端に何か別の白いものが映っている。え?梅が咲いた?2月半ば。咲き初めてもおかしくない。確かめてみよう。
ぼくは、食卓の上の鉛筆とメモを取ると寝間着姿のままサンダルで外に飛び出した。
そして梅の木を見上げた。たくさんの蕾の中に一輪、花がさいている。

「きれいだなあ。」ぼくは二日酔いの足元をふらつかせながらスケッチした。出来栄えは下手っピーのひとこと。冷たい風が舞った。「寒い。」ぼくは家に戻ると、また布団にもぐりこんだ。

(白梅・満開)
特大の梅の実
5月半ば。ゴミ出しの日。
隣の五十嵐さんの奥さんから声を掛けられた。
「お宅の梅、今年は豊作ね。」
「梅の実ですって。?」
連日、酒ばかり飲んでいて梅の木を見る余裕なんてなかった。
見上げると、葉の後ろに隠れるように、特大級がぎっしり生っている。


ぼくは開いた口がふさがらなかった。
たしかに梅の実は毎年生るが、それも、小さいのが10数粒程度。
肥料さえ与えたこともないのに。何故だろう。
(2につづく)