ごほうび
梅の実が、その年に限ってたくさん生ったのはどういう訳だろう。ぼくは考えてみた。
そうだ。寝間着姿で梅一輪を描いた2月のあの日のことが思いあたった。
ひょっとすると、梅の木はこう考えたのかも知れない。
『今まで見向きもしなかった私をきれいだと褒めながら描いてくれた。そのお礼に特大の実をたくさんつけてビックリさせてあげましょう。』

かって、雪の日、酔った勢いで梅の木の根っこにオシッコをひっかけた事もあった。
そんな無礼な行為さえ許してくれた上に、たくさんのご褒美まで下さったことを感謝した。
梅の木がぼくにコンタクトしてくれたことが不思議で、何より嬉しかった。

コンタクトありがとう
ぼくはコンタクトをきっかけに酒とたばこをきっぱりやめた。
体に合わない酒とたばこをいままで何故やめられなかったのだろう。
「しらうめさん。おはようございます。よい天気ですね。」
ぼくは(しらうめさん)と呼ばせていただくことにした。
しらうめさんは言葉は発しないがにこやかにほほ笑んでいらっしゃるように見える。
梅の木がぼくとコンタクト出来るとしたら、近所の花や木も意思疎通ができるかもしれないと、しげしげ見るようになった。
そのうち石神井公園まで足を延ばして、植物を鑑賞するようになった。
ヒメオドリコソウという立札があった。なぜか花は無く立札だけである。名前が可愛らしいので植物図鑑で調べた。ふーん。
次の週、家の庭の真ん中にピンク色の小さなつぼみらしきものが見えた。よく見るとヒメオドリコソウだ。ウソだろ!? あまりに嬉しくて実家から母を連れてきて見せた。
次の週、庭がヒメオドリコソウでいっぱいになった。

(我が家の庭。右下に群生しているのがヒメオドリコソウ)
頭の中は植物の色でいっぱい
不思議、不思議。植物を観察するようになって頭の中が色でいっぱいになった。
すると、こんどは絵が描きたくなった。あれ?
いままで絵をかこうなんて思ったこともなかったのに。
いてもたってもいられず、画材屋さんに行って、F6(407mm×320mm)のスケッチブック、水彩絵の具、筆、アルミの折りたたみ椅子まで買った。

(当時使ったパレットと筆)
大胆にもスケッチ旅行を考えていたのである。
(3につづく)